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東京高等裁判所 昭和53年(行ケ)186号 判決

事実及び理由

一  請求の原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、原告主張の審決の取消事由について検討する。

1  補正後の考案についてした審決の判断の当否について

(一)  技術分野(領域)、基本的解決手段について

(1) 技術分野について

成立に争いのない甲第二号証の一、二、第三号証によると、補正後の考案と引用例のものとは、ともに写真撮影装置であつて、被写体の結像状態を観察するフアインダ部、右フアインダ部における露出量の測定手段及びその測定結果により露出を制御する写真シヤツタを具備するものであることは明らかであり、したがつて、両者は、右のような範囲においてその技術分野を共通にするものということができる。しかし、補正後の考案は、そのような上位概念のレベルに立つて考案の構成要件を考えているものではなく、請求の原因二の2に掲記のとおり、具体的にAないしDを構成要件とするものであるところ、前掲各証拠及び成立に争いのない甲第四号証によれば、可視光による補正後の本願考案と電子線による引用例のものとの間には、その光量ないし電子線量の測定原理及び手段を著しく異にし、その結果記憶すべき測定値の測定時期について顕著な差異があることが認められる。

すなわち、補正後の考案は、反射ミラーのわずかな角度変位によつても測光値に大きな誤差を生ずる関係上、記憶用スイツチS1の開き動作により反射ミラー8の跳ね上げ開始直前の被写体光量に相応する光電変換部出力を記憶用コンデンサに電気的に記憶させることが必須の構成要件とされており、反射ミラーの跳ね上げ開始後のものであつてはならないものとされていることは、明らかである。これに対し、引用例のものは、その明細書中に、「まず、螢光板10を軸13を中心にして旋回させる。この旋回運動の最初の部分において、開閉器28は、カム31を介して閉じられる。これによつて電流がリレー26を流れ、リレー26はシヤツタを閉じる。開閉器28が閉じると同時に開閉器17及び18は開かれるので、貯蔵コンデンサ16は、増幅器15から遮断される。」との記載があつて、このことからすると、貯蔵コンデンサ16が捕集電極12から切離されるのは、右捕集電極12が旋回を開始した後であると解される。そうしてみると、補正後の考案と引用例のものとの間には、光量ないし電子線量を測定する時期につき顕著な相違があるものというほかはない。そして、前掲甲第三号証、第四号証によると、引用例のものにあつては、捕集電極・螢光板の旋回、傾動が相当大きくなつても測定誤差が補正後の考案のように顕著に生じないものであることが認められる。

したがつて、補正後の考案と引用例のものとの間には、構成要件上顕著な差異があるのであるから、両者を対比するに当たり、このような相違点について考慮することなく、ただ単に技術分野を共通にするものとして、進歩性を否定することは許されない。

この点に関し、被告は、引用例のものが螢光板を休止(水平)位置から六〇度位傾斜させても電子線の測定誤差を生じないとしても、右螢光板が電子線の経路の外方に旋回すれば、測定はできないのであるから、引用例のものにもまた撮影直前の測定値を記憶させる技術的思想が示されており、補正後の考案と技術的内容に差異がない旨主張する。しかし、前掲甲第二号証の一、二、第三号証、第四号証によれば、補正後の考案にあつては、反射ミラーの跳ね上げ開始前の測光値を記憶するものであつて、跳ね上げ開始後であつてはならないことは明らかであるのに対し、引用例のものにあつては、螢光板・捕集電極の旋回開始後旋回終了前で螢光板・捕集電極が電子線経路外へ旋回する前の測定値を記憶するものであることが認められる(なお、引用例のものにおいては、記憶すべき電子線量の測定時期を螢光板・捕集電極の傾斜(旋回)開始前とすべき必然性はない。)から、被告の右主張は採用できない。

(2) 基本的解決手段について

審決は、補正後の考案と引用例のものとは、電気シヤツタを用いた写真撮影装置において、撮影時に、フアインダ部材が移動することにより測定素子が撮影光路外に変位し、限時回路が不作動になる欠点を除去するため、測定素子を設け、レリーズに際して記憶用コンデンサを測定回路から時定数回路に接続させるようにした点で、その目的及び基本的解決手段を同じくするとしている。しかし、前述のとおり、補正後の考案にあつては、反射ミラーの跳ね上げ直前の測光値のみを記憶対象とするのに対し、引用例のものは、螢光板・捕集電極の旋回開始後の測定値を記憶対象とするものであつて、両者は、記憶対象値の測定時期を全く異にするものであるから、その相違点に着目することなく、両者を包含するかのような「レリーズに際して」という概念を用いて補正後の考案と引用例のものとを対比し、両者の目的及び基本的解決手段が一致するとしたのは誤りである。

しかもなお、前述のとおり、引用例のものは、捕集電極・螢光板の旋回角度が相当大きくなつても測定誤差が補正後の考案のように顕著に生じないことが認められるから、被告のこの点の主張は当らない。

(二)  構成要件の対比について

(1) Aとaとの対比について

電気シヤツタを用いた写真撮影装置としては、補正後の考案と引用例のものとの間に差異はないけれども、補正後の考案は、そのような上位概念のレベルに立つて構成要件を規定しているものではなく、一眼レフカメラの測光装置に関するものであり、他方、引用例のものは、電子顕微鏡の荷電粒子線量測定装置に関するものであるところ、両者は、前(一)に述べたとおり、写真撮影装置における撮影形式の相違に伴い可視光又は電子線流のいずれを用いるかにより、測定原理及び測定手段を全く異にするものであるから、「電気シヤツタを採用する場合の技術上の問題点となる測定素子の配置が極めて類似する」とのみ説示したに過ぎない審決の判断は相当ではなく、また、両者の技術分野が共通であり測定手段も等価である旨の被告の主張も採用できない。

(2) Bとbとの対比について

既に(一)の(1)に述べたとおり、補正後の考案と引用例のものとの間には、光量、電子線量を測定する時期につき顕著な相違があることからすれば、Bの構成がbの構成から極めて容易に考えられるものとすることはできない。

この点について、被告は、引用例のものについても記憶した測定値に誤差を生じさせないためには、螢光板が動き出す以前でなくてはならないことは当業者ならば容易に考えられる程度のことである旨主張するが、既に述べたとおり、引用例における捕集電極は、荷電粒子線量を計測するためのものであり、これは、可視光測定用光電変換素子とは性質を著しく異にし、かつ、螢光板・捕集電極が多少傾動しても実質的に測定誤差を生じないものであるから、引用例のものには測定誤差の発生防止のために捕集電極・螢光板の旋回開始前の測定値を記憶させる必要はないというべきであり、このことからすれば、被告の右主張も失当である。

(3) Dとdの対比について

前述のとおり、補正後の考案と引用例のものとが技術分野を異にするというべきものであり、両者は、記憶コンデンサ又は貯蔵コンデンサで記憶すべき測定値の測定時を、反射ミラーあるいは、螢光板の跳ね上げ又は旋回開始前のみとするか開始後をも含ませるものとするかにおいて全く相違するのであり、このことからすれば、Dとdの対比に関する審決の判断が相当でないことは明らかである。

(三)  以上のとおりであるから、補正後の考案についてした審決の判断は誤つているというべきである。

2  そうしてみると、補正前の考案に関する原告の主張については判断するまでもなく、審決は取消を免れない。

三  よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を正当として認容することとする。

〔編註その一〕本願考案の要旨は左のとおりである。

1  補正前の考案の要旨

撮影レンズの通過後の光を測光する光電変換部を用い、電気回路によりシヤツタ秒時を決定する電気シヤツタを有するカメラにおいて、光電変換部と電気回路との間に記憶用コンデンサを有する記憶回路を設けるとともに、前記電気回路は記憶用コンデンサとは異なる他の限時用コンデンサを有する時定数回路を有して限時制御を行うことにより該電気回路出力に接続されるシヤツタ操作回路を作動させるように構成し、シヤツタレリーズ前の被写体光量に相応する光電変換部出力を前記記憶用コンデンサに電気的に記憶し、記憶用コンデンサに記憶された記憶値に応じて、前記電気回路中の時定数回路を限時動作させることにより電気回路出力に接続されたシヤツタ操作回路を作動させてシヤツタの開閉秒時の決定を行うようにしたことを特徴とする電気的シヤツタの記憶式限時装置を有するカメラ。(別紙図面(一)参照)

2  補正後の考案の要旨(補正後の考案の実用新案登録請求の範囲)

A  撮影レンズ通過後の光をフアインダ光路中に配置した可動反射ミラーにより反射後受光する光電変換部を用い、電気回路によりシヤツタ秒時を決定する電気シヤツタを有する一眼レフカメラにおいて、

B  光電変換部と電気回路との間に、前記反射ミラーの跳ね上げ開始前に開く記憶スイツチを介して光電変換部出力が印加される記憶用コンデンサを有する記憶回路を設けるとともに、

C  前記電気回路は記憶用コンデンサとは異なる他の限時用コンデンサを有する時定数回路を有して限時制御を行うことにより、該電気回路出力に接続されるシヤツタ操作回路を作動させるように構成し、

D  前記記憶スイツチの開き動作により前記反射ミラーの跳ね上げ開始直前の被写体光量に相応する光電変換部出力を前記記憶用コンデンサに電気的に記憶し、記憶用コンデンサに記憶された記憶値に応じて前記電気回路中の時定数回路を限時動作させることにより電気回路出力に接続されたシヤツタ操作回路を作動させてシヤツタの開閉秒時の決定を行うようにしたことを特徴とする電気的シヤツタの記憶式限時装置を有するカメラ。

〔編註その二〕本件に関する別紙図面(一)は左のとおりである。

<省略>

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